COLUMN

コラム

昭和を代表する近代建築について想う

COLUMN2018.11.25
代表取締役 所長 萩原 憲一

私たちの生まれた昭和の時代が終わり、まもなく平成の時代も幕を下ろそうとしています。新しい時代と共に人々の生活様式や習慣、ものの考え方、価値観などは常に変化し、進化していくものと考えます。建築も同様であり、社会の変化と共に建築物の持つ役割や求められる機能も少しずつ変わってきています。

その時代を映す鏡として建築物の存在が挙げられることもしばしばありますが、ファサードのデザインや意匠、建築計画の組み立て方なども、社会の要請に従い時代を反映した建物として建設されてきました。

前橋市内には後の近代建築の秀作といわれる昭和の時代の建物が多く残っています。そこで今回は市内に現存する特筆するべき建築物として三組の建物を紹介します。各組とも建設された年代と設計者が同一であり、共に関係性が深く共通した建築的コンセプトのもと計画された建物です。

一組目は、昭和庁舎と群馬会館です。昭和庁舎は昭和3年の竣工、群馬会館は翌年の昭和4年の竣工であり設計者は共に佐藤功一氏であります。この時代の設計思想は、庁舎は古くなったら建て替えるという発想はほとんどありませんでした。スクラップアンドビルドの考えは戦後であり、現在はその時代に戻ったかのように長寿命化やロングライフ化へと歴史回帰の様相をみせています。そのような社会の変遷の中、昭和庁舎は群馬県庁の全面建て替えを経ながら今なお「県庁の顔」として圧倒的な存在感を示しています。

群馬会館もあかぎ国体を契機に大規模は内部改修が行われ、さらに昨年、耐震化や設備更新と共に創建当初の内観意匠を復元する大規模な改修工事が実施され当時の姿が蘇りました。国の登録有形文化財でもある二つの施設は、昭和初期の建築物が向かい合う風景として他の都市には見られない群馬らしい景観を創り出していると言えます。

二組目は群馬県民会館と群馬県立図書館を紹介します。設計者は岡田新一氏で前者は昭和46年、後者は昭和53年の竣工です。県民会館の通称で広く県民に親しまれ様々な催しが行われいるこの施設は、巨大な石の肌が外皮のまま中央のエントランスから内部空間に入り込んでいる様なイメージです。堅牢で不動の存在を示す量魁に切り込まれた僅かなスリットから人々が吸い込まれ、内部に導かれると外観のそれとは対照的に豊かな吹き抜け空間が広がり奥に続く公園との連続性を持たせた大きなガラス開口部が広がります。

一方の図書館は前作の会館によって創り出された環境にどのように融合させるかがテーマの一つであったと思われます。外観はタイルに包まれたボックス空間が積層され前面のケヤキの緑と融合しながらアカデミックな雰囲気を醸し出しています。両施設共、公共の文化的施設が備えるべき恒常性を意識したものであると推されます。

三組目の建物は坂倉建築研究所の昭和50年竣工の群馬ロイヤルホテルと昭和56年竣工の前橋市庁舎です。ロイヤルホテルの外装は琥珀色に輝く磁器タイルに包まれ、横連続スリットにより特徴づけられた高層棟と低層棟のボリュームの対比が印象的な作品です。前橋市庁舎も同様に高層庁舎建築には珍しい彫りの深い水平連続バルコニーにより外観の印象が支配化されています。また同庁舎の計画は既に100年建築の思想をもって建設されておりスーパーストラクチャーの採用による無柱空間の実現やバリアフリーや省エネ計画を実践した先駆的施設であったと言えます。

前橋市内には昭和の時代を彩った作品が現役で活躍しています。そして市民に親しまれる存在であると共にランドスケープとしての役割を持ちながら景観を創っています。私達はこのような近代建築の秀作を適切に維持保全しながら良質な都市ストックとして将来に繋げていく努力が必要であると思います。